「英文を読むのが遅い」
「時間内に読み終わることができない」
「速く読めたらスコアも上がるのに…」
これらは英語学習をしていれば必ずぶつかる壁ではないでしょうか?
こんにちは。You先生です。
今回は、英検1級・TOEIC満点講師である私が、実際に速読できるようになる学習法をシェアしたいと思います。
「目を速く動かす」や「視野を広げる」といった付け焼き刃的なテクニックではなく、「意味を正確に取った上で」「速く」読めるようになる学習法です。
実際にこの方法で指導して読解速度が劇的に向上した教え子たちがたくさんいるので、安心して読み進めて下さい。
速読に関する総論は以下の記事もご覧ください。
リーディングの学習法って、音読とか多読とか精読とかたくさんあって、まず何からしたらいいのか分かりません。
そうですよね。まずはそれぞれの学習法についてメリットとデメリットを見ていきましょう。
①音読(Oral Reading)
英文を実際に声に出して読む学習法です。英語学習界では根強い人気を誇る学習法で、特に近年は音読に対する人気が高まっているように思われます。
[音読のメリット]
[音読のデメリット]
②多読(Extensive Reading)
多読とは、自分の学習レベルに合った洋書をとにかく大量に読みこなしていく学習法です。初めは挿絵が豊富な絵本などから入り、視覚の助けを借りながら母語を介することなく英語の意味・イメージを少しずつ形成していき、少しずつ教材レベルを上げていきます。自分のレベルに合っていないと思ったら直ちに読むのを止めて、レベルを下げた教材にどんどん移行していくのが特徴です。
[多読のメリット]
[多読のデメリット]
③精読(Intensive Reading)
英文の構造をしっかりと分析して読み解く学習法です。昨今の英語教育改革の中でも真っ先に批判の的となる「文法訳読」の核となる学習法と言えます。
[精読のメリット]
[精読のデメリット]
んーと、じゃあとりあえず速く読めるようになりたいし、将来話せるようにもなりたいから、音読をいっぱいしたらいいんですかね?
総合的に英語力を向上させていくためにはどの勉強も大事なのですが、私個人としてはまず精読から始めるべきだと考えています。
英語と日本語はほぼ正反対と言っても過言ではないほど距離がある言語同士です。日本語を母語とする人間が、ネイティブスピーカーのように受動的に英語を浴びるだけで身につけるには途方もない時間と労力がかかります。
日本語と英語の大きな隙間を埋めるためには、母語を使った分析と理解が不可欠です。その分析と理解を促進するのが精読であり、これがあらゆる勉強の基礎となると言っても過言ではありません。
私は受験生の時、精読ばかりをしていました。気付くと英文の構造が一瞬で見えるようになっており、wpm(1分間に読める語数)は高校生平均の75語の2倍を超える180語(センター試験で30分は余る速度)に達していました。
次の項では、速読をするためにどのように母語を使って分析と理解をしていくのかを見ていきましょう。
我々は文章を読む際、一文字一文字を追いかけて意味を紡いでいくわけではありません。
日本語だと、一瞬の視界に収められる文字数が5文字〜7文字と言われていますが、その5文字〜7文字の中から区切りごとに意味を解釈し、どんどんその意味を紡いでいるのです。
英語の文を読むときも同様です。一瞬の視界に収められるのは英単語でも5語程度です。初学者であれば、3語程度で限界ということもあるでしょう。その一瞬で収められる数語から、各単語を認識して意味や文構造を把握しながら目を動かしていきます。
じゃあ、やっぱり視野を広げて速く目を動かしていけば速く読めるんじゃないですか?
そんなことをしても文章の内容が分からなければ全く意味はありません。結局どれだけ視界に収められる語数を増やしても英文の意味を直ちに解釈する力がなければただの目の運動に過ぎないのです。
例えば、以下の文を見てください。
「…動と変化に対して自己を維持する過程という意味で使われた。」
これはセンター試験の国語の文章から適当に抜き出した1行の冒頭です。私も内容は全く分かりませんが笑、このほんの一部分を見ただけでもかなりの情報が分かるのではないでしょうか?
ええっと、おそらく初めの「…動」は「変化」と並列っぽいから「変動」かな?
主語が何かは分からないけど、述語が「という意味で使われた」ってなってるから何かの用語が主語?
「変化に対して自己を維持する過程」となっていますから、人間か少なくとも生物の持つ何らかの仕組みが主語ですかね?
さて、前後の文脈も主語も分からないのに、なぜこれほどのことが分かるのでしょうか?
それは、「文法」と「語の区切り」そして「修飾関係」が分かっているからです。
英語も日本語と同じで、「文法」と「語の区切り」、「修飾関係」がしっかりと分かっていれば、一瞬の視界に収められた断片的な情報からでも多くのことが分かるので情報処理を素早く行うことができ、日本語の文章を読むのと同様にどんどん速く読めるようになります。
私たち日本人は幼少期からの膨大な言語体験の中で自然と日本語の文法を身につけてきたので、いちいち考えなくても感覚的にこれらのことが分かってしまいます。
しかし、外国語である英語ではその言語体験が圧倒的に足りないために情報処理に時間がかかってしまうのです。
では、その「文法」「語の区切り」「修飾関係」が分かる状態になるために何が必要なのか?
それが「精読」なのです。
精読はよく批判の的になりますが、「ネイティブが無意識で行なっていることを意識下に引き摺り出し、感覚などといった曖昧なものではなく、理論的に分析して身につけていく」という作業が精読であり、外国語学習者にとっては母語と外国語の違いを知りその差を埋めながら正しく文章を読めるようになる上で必要不可欠な学習なのです。
「文法」に基づいて正しく英文を分析し、「語の区切り」を見抜き、そのそれぞれの「修飾関係」を明らかにして一つの意味のつながりを構築する、この作業こそが素早く文章を読めるようになる第一条件なのです。
英語が伸び悩んでいる生徒は大体正確な読み取りができていません。「なかなかスコアが上がらない」と悩んでいた生徒に精読をさせてみると瞬く間にスコアが上がった事例はこれまでに何度も目にしてきました。
精読が大事なのは分かったけど、具体的にどういう勉強をしていけばいいの?
精読をするためには最低限、「品詞」「句と節」といった知識が不可欠です。これらの知識は英文法全体の中でも最重要知識ですので、「よく分からない」という人は以下の記事をご参照ください。
ここでは、「品詞」や「句と節」といった基本的な知識が身についていることを前提に、具体的にどのように精読学習を進めていくかをご説明します。
実際に精読学習をしていく際の基本となるのが、いわゆる「英文解釈」というものです。英文を1語余さず品詞と文型に従って分析していくという、文法知識を実践的に落とし込んでいく作業となります。手順は、以下の通りです。教材は何でもいいのですが、長すぎると疲れるので苦にならない量の英文を扱いましょう。
(1)ノートの上の方で英文を1行ずつ空けながら書き写す。
書き写すのが面倒ならコピーして貼ってもいいのですが、後々ライティングやスピーキングも伸ばしていきたいのなら、多少面倒でも書き写すのをオススメします。
(2)行間に、文の要素(SVなど)や修飾関係を表す矢印を書き入れながら、1語余さず分析する。
書き込む事項は
の3点です。
(3)文型と修飾関係に基づいて全訳を書く。
下の空いている箇所は単語や表現などをメモに使うといいと思います。
訳す際の注意点としては、まずは直訳を作ることを目指し、意訳は最小限にしましょう。直訳を介さずに初めから意訳をしようとすると、能動・受動の区別や前置詞の認識などが疎かになり、正しい解釈ができなくなってきます。最悪のケースだと、単語の意味を適当につなげて勝手な解釈をする癖がつくので英文解釈の意味がなくなり、また読解スピードが下がることになります。
分かりました!英文解釈って、とりあえずSとかVとかつけて訳せばいいんですよね?
いいえ。それではただの「訳す作業」です。解釈(=精読)とはあくまで英文の情報処理速度を上げるために行うのだ、ということを決して忘れないで下さい。
精読の勉強をしていると、「精読のための精読」「手段の目的化」に陥る人が少なからずいます。「精読」が文法訳読の弊害の代表格として批判の的になるのが正にこの理由ですが、精読とは単に「訳す作業」ではありません。
精読をする理由とはあくまで、
「リーディングで語順通り素早く情報処理して読み進められるようにするため」
「リスニングでもネイティブ・スピードで意味を聞き取れるようにするため」
です。この目標を達成するために守らなければならない鉄則が2つあります。
その1つ目は
「一旦最後まで読んで分析するのは禁止。語順通り前から1語ずつ、後ろの展開を予測しながら分析していく」
というルールです。
精読をする際に学習者が陥りがちなミスですが、英文をピリオドまで読んでから「さあ、解釈するぞ」という読み方では実践的な力は身につけられず、読解スピードの向上も望めませんし、リスニングでも苦労することとなります。
例えば先ほどの例文で言うと
Philosophy introduced a new element to …
の読み方は、
Philosophy(哲学は)introduced(導入した→何を?)a new element(新しい要素を)to(〜に→toは“到達点“を表す前置詞だから、後ろには“到達すべき場所”を表す名詞が来るはず)…
といった具合です。必ず語順通り処理していきます。そして、この際特に重要なのは赤字の部分です。
“他動詞が来たら後ろに目的語を意識して「何を?」を期待する“
“前置詞の後ろは名詞が来るのが基本だが、前置詞の持つイメージに基づいて「どんな名詞が来そうか」まで予測する“etc…
漫然と単語に目を通していくのではなく、後ろに決まった形を取る単語に行き当たったら必ず後ろの形を予測してから読み進める癖をつけていきましょう。
具体的には、「関係代名詞が来たら後ろは不完全文になる」や、「ifが文頭にあるということは全文で”If S’ V’, SV.”という構造になっているはずだ」といったように、文法知識に基づいた予測を行いながら情報処理していきます。
普段英文を読む際もそんなメンドクサイことを毎回するんですか?そんなことしていたら途端に時間がなくなってしまうと思うのですが…。
先述した通り、英文解釈とはあくまで「手段」です。もちろん実戦ではそんなに深く考える時間はありません。しかし、日常的に後ろの形を予測しながら読む練習をしていくと、意識しなければできなかったことが段々無意識にできるようになり、読解スピードが飛躍的に向上します。そのための練習だと心得てしっかり取り組みましょう。ちなみにこの能力を身につけるとリスニングでもすぐに反応でき、余裕を持って次の情報を待てるようになってきますよ。
先ほど、「英文は語順通り処理していく」と述べましたが、こうした読み方を体現したものとして「スラッシュ・リーディング」と呼ばれるものがあります。
知ってますよ!
英文を語順通り読んでいって、意味の区切りごとにスラッシュを入れていくんですよね!
それはいい方法よね!だって英語を語順通り読むんだからすごい実践的だと思うわ!
確かに、「英文を語順通り情報処理していく」という点では非常に良い方法ではあるのですが、私はこの読み方には1つの弊害があると考えています。
スラッシュ・リーディングの弊害、それは「意味のかたまり同士の関係が分からなくなる」ということです。
簡単な文章なら何となく意味のつながりが予測できるので問題なく読み進められるかもしれませんが、複雑な文章や自分の馴染みのないテーマを扱った文章だと、意味のつながりが全く分からないために断片的な情報が蓄積されるだけになり、結局何を言っているか分からない、ということになりがちです。
実際、受験生の中にも恐ろしい速さで語順通り読んでいけるのに、「どういう文章だった?」と問うと「イヤ、全く分かりません」という回答をする子が少なくありません。
こうしたスラッシュ・リーディングの弊害を克服するための鉄則が、
「修飾関係を常に考えながら読み進める」
ということです。
英語と日本語の情報構造が違うのは周知の事実ですが、英語はまず主たる情報を述べてから詳細な情報は後ろに後ろに繋げていきます。しかし、その新たに出てくる情報は、すでに出てきた情報の“ある部分”と必ず関係があります。その関係性が分からない、もしくは誤った関係性を想定してしまうと、文の内容が分からず読み誤ってしまうことになります。
先ほどの例文を再度見てみましょう。
Philosophy introduced a new element to the relationship with external opinion, what one might visualize as a box into which all public perceptions, whether positive or negative, would first have to be directed in order to be assessed, and then sent on to the self with renewed force if they were true, or ejected harmlessly into the atmosphere to be dispensed with a laugh or a shrug of the shoulders if they were false.
この文にスラッシュを入れていくと以下のようになります。
Philosophy introduced a new element/ to the relationship/ with external opinion,/ what one might visualize/ as a box/ into which/ all public perceptions/, whether positive or negative,/ would first have to be directed/ in order to be assessed,/ and then/ sent on/ to the self/ with renewed force/ if they were true,/ or ejected harmlessly/ into the atmosphere/ to be dispensed/ with a laugh/ or a shrug of the shoulders/ if they were false.
スラッシュ毎の意味は分かりますが、文全体が何を言っているのかさっぱり分かりません…。
正に意味のかたまり同士のつながりが分からないために文意が取れないという結果になっています。スラッシュ・リーディングは万能ではないということがお分かり頂けたでしょうか?
これを解消するためには、スラッシュで区切ったらその意味のかたまりが「すでに出てきた情報のどこに繋がるのか?どこと関係しているのか?」を常に意識していかなければなりません。
つまり、「ある程度の返り読みは必要である」ということです。
え?「返り読み」って速読の弊害って言われていますよね?
もちろん「返り読み」を常にしていると速く読めるようにはなりません。しかし、英文構造が複雑になってきた時は、要所要所で「返り読み」をし、修飾関係を確認する必要があるのです。
例えば日本語の文章でも、少し硬めな学術的文章や1文1文が長い場合は、一瞬戻って主語を確認したり並列関係を整理したりすることがあると思います。
母語でさえそうなのですから、ましてや外国語である英語で「一切返り読みをしなくても読める」なんてことは到底有り得ません。
確かに、従来の日本における英語教育のように「後ろから訳してつなげていくと日本語になるよ!」といったような教え方は英語脳育成の妨げにもなりますし、実践的ではないので私も反対です。
しかし、「意味のかたまり毎の修飾関係を確認する」という作業をせずにただただ英文を語順通り読んでいても、同時に頭の中で意味を構築していくことはできません。特に初学者や伸び悩んでいる中級者はこの過程ができていないために「英文の意味が分からない」という状態になっています。最低限の返り読みはむしろ必要だと考え、しっかりと修飾関係を押さえる練習をしましょう。
これも鉄則1と同様で、普段しっかりと練習をしておくと、もはや返り読みをしなくても直ちに修飾関係が見えてサクサクと読み進めていけるようになります。
ちなみに、上記の例文に関してどの時点で「返り読み」をして修飾関係を考えるのか、は解説が長くなりそうなので別の記事に記載しておきます。
速読ができるようになるための学習法をまとめると以下のようになります。
こうしてしっかりと分析する練習をしていけば、理論的に思考を巡らせながら行っていたことが少しずつ“感覚”へと昇華されていきます。
正しい“感覚“が身についてくると、ネイティブのように英文の語順通り直ちに情報を処理することができ、リーディングでもリスニングでも困ることはなくなります。
精読練習は地道な作業ですが、読解技術は単語の暗記とは違って、一度身につけば一生なくなることはありません。ぜひしっかりと腰を据えて取り組んでみて下さい。